PCネットワークサポートブログ

2023.07.25

天誅

あれは私がゾンビだった先月の出来事です。
 
コピー機を新機種に入れ替えたばかりのお客様で、2日前から印刷が待機中になって出てこない。と連絡がありました。
おそらくコピー機の中でゴミデータが溜まっているのだろう。主電源の再起動で復旧しそうだな。まぁ再起動で直らなくても最悪HDDのデータクリアで大丈夫だろう。と軽い気持ちでお客様先へ訪問しました。
さっそくお客様から詳しい話をお聞きします。再起動をすると待機中の紙は出てくるが、しばらくするとまた待機中で止まってしまうとの事でした。
お客様は「これって初期不良じゃないですか?新しい機械と交換できるの?」と仰っていましたが、もしかしたら一時的なエラーかもしれないのでと、作業を開始しました。
 
(再起動はすでにやっていたのか…HDDのクリアで直るかな。しかし入れ替えたばかりの機械でこんな事ってあるのだろうか。やっぱり初期不良?)
少し不安はあったのですが、まずはエラー履歴を確認します。すると2日前、印刷待機中の症状が発生した頃に電源基板のエラーとコントロール処理基板エラー、メイン駆動部エラーが発生していました。
とりあえずHDDのクリアを行い数十枚の印刷テストをして問題が無さそうだったので、現場を離れました。
 
 
現場を離れて30分も経たないうちに、先ほどのお客様から再発したとの連額が入りました。
やっぱり駄目だったか。今度はちゃんとメーカーの事例集を確認してみますが、新機種という事もあり事例がほとんどありません。
こういう時はファームウェアのバージョンアップで回避できるかもしれないと、明日システムファイルを持って訪問することにしました。
 
翌日最新のファームウェアを携えて訪問すると、コピー機はまた印刷待機中で止まっていました。
なんだかファームアップでも直らない気がする…。とにかくファームアップを開始します。しかしファームアップの途中でバージョンアップエラーの表示がでて、勝手に強制終了になっちゃいました。
しかも中途半端にバージョンが上がっちゃったから、電源を入れると「本体とオプションのバージョンが適正ではありません。」とオプションを取り付けていないのに、ワケの分からない文言が表示されるようになってしまいました。
もしかして持ってきたファームウェアが壊れていたのか?これはやってしまったかもしれない。お客様へ事情を説明し、再度ファームウェアを準備して訪問することにしました。
 
一旦事務所に戻り、事務所にある同機種のコピー機で先ほどエラーで弾かれたファームを入れてみると、問題なくバージョンが上がっていました。
っつー事は、このファームウェアは壊れていなかったのか。やっぱりあのコピー機、何かおかしいぞ。
これはけっこうヤバいヤツかな?バージョンアップ中にエラーって聞いたことないけど…。本当に初期不良?
メーカーに連絡して、初期不良で対応できないか打診してみましたが、その前に部品をいくつか交換してほしいと言われました。
 
 
それから私は何度もそのお客様の所へ伺いました。バージョンアップも何度も試しました。基板のコネクタを何度も確認しました。言われた部品もいくつか取り換えました。しかし何も変わりません。
私は身も心もボロボロです。心臓は止まり、肌は緑色になり、よだれを垂らした、まるで生気を感じないゾンビと化していました。
何度もメーカーへ連絡を取り、初期不良での対応をお願いしましたが、次はこの部品の交換をしてくれと、中々対応に応じてくれません。
そこで先輩方に事情を説明して、アドバイスを頂く事にしました。
すると、最初の電源エラーが気になる。もしかして電源エラーの時に停電とかあったんじゃない?それで基板がやられたとか。とナイスなコメントを頂きました。
私は代替機を準備して、再度訪問してみます。
お客様も「いい加減初期不良で交換してくれませんか?」としびれを切らしております。
「本当に申し訳ありません。私もメーカーに初期不良としての対応を進めている所です。」と私自身メーカーの対応にしびれを切らしておりました。
しかしメーカーからは、電源基板とコントロール処理基板を交換したいので、今度はメーカーさんも同行して一緒に訪問したいとの事でした。
そのことをお客様に伝えると、もう次でダメらな新品をお願いしますね。と渋々了承を得た感じです。
そして先輩からの助言で、電源エラーが発生していた時期の事をお客様にお尋ねします。
 
19「最近、この建物で停電とかありました?」
お客様「あぁ、あったね。一瞬パッと停電してましたよ。たぶんここら辺の地区全体停電していたと思います。」
やっぱり停電があったのか!コピー機のエラー履歴によると、先週土曜日のお昼12時30分頃に電源エラーが発生していました。
19「先週土曜のお昼ごろでした?」
お客様「そうそう、確かお昼食べていた時だったから12時過ぎていたと思います。」
19「12時30分とか?」
お客様「多分そのくらいだったね。でも天気も晴れていたし、停電するって関電から通知も無かったと思いますよ。なんだったんでしょうね。」
キターーーーーー!!やっぱり停電からの不具合か!?
 
19「おそらく今回の症状はこの停電が原因の可能性があります。もしかしたら停電で基板のどこかがやられちゃったのかも…。」
お客様「いや~、きょうび停電くらいでこんなことは起こらないでしょう。最新のコピー機ですよ。ましてや天下のCANONさんでこんな事ならないと思いますよ。電源基板のサージ機能とかで守られるはずでしょ……」
 
ありがたいことにCANONさんを相当評価しておられる。

しかし停電が原因だとしたら、初期不良としての対応はかなり厳しくなります。
お客様にそのことを伝えましたが、やはり停電くらいで…と腑に落ちない感じでした。とりあえず後日メーカーさんと訪問しますと現場を離れました。
停電があったことをメーカーさんに報告すると、初期不良での対応はおそらく無理だろう。
ここまで来たらお客様はもちろん、私も初期不良での対応を通してもらいたい気持ちでいっぱいでした。
 
今回のエラー履歴とか、コピー機の情報も全部投げているんだし、あえて停電の事を自分から言う必要ないよね…。

そうです。私はゾンビ。死人に口なしです。
 
 
それからメーカーさんと連絡を取り合い、訪問する日程を決めました。
お客様にCANONさんと訪問するアポ電を入れる時に、停電の事はあまり言わないように…と言おうかと一瞬思いましたが、それは口裏を合わせている感じがするのでやめておきました。
決戦の日。私はCANONさんを駅まで迎えて、たくさんのパーツを車に乗せて現場へ向かいます。
現場へついて挨拶も早々に早速作業を開始します。
さすがCANONさん。手際がハンパありません。
基板も交換し、ファームアップも正常に完了しました。これはもしかして直ったかも?淡い希望が見えました。
作業が終わり、CANONさんがお客様に説明をいています。今回交換した部品についてや、また再発してしまった時の次の対策など。
 
「いや。次と言われましても、もうこれこそ初期不良ではないのですか?」
 
とお客様も初期不良として対応できないかと交渉していました。
私はそれをCANONさんの後ろに立って、フムフムと聞いていました。(そうだ、もう次は無い。このまま初期不良で押し通すんだ!がんばれ!!)
 
「あとね、19番さんにも言いましたが、前に一度停電があったんですよ。まぁ、停電くらいでこんな……」
(……ッ!!バカなッ!!言った!!言っちまった!!!逆転サヨナラ満塁ホームラーーン!!!)
「えっ!?停電!!?」
 
そんなの聞いてないよと言わんばかりの驚いた声を出して、CANONさんがバッと振り返り私の顔に目をやります。
その振り返る瞬間のCANONさんの首の筋肉繊維から伝わる空気の振動を瞬時に察知した私は、CANONさんの首の動きに合わせてクルリと斜め下を向きます。
 
(…ウヒーーー!!あ…あぶねー!ぎりぎり視線をかわす事には成功したけど……、それ言っちゃう?しかも19番って名指しで言っちゃったよ!!
 ……まずい、しかしこの状況……ひじょーーにまずい……。ハァハァ、ヤバいゼェェ…まだ見てる…ずっとこっち見てるゼェェーーー!!)
 
お客様の今の発言で、この場にいる誰かが邪悪な存在である事が確定しました
視界の端でCANONさんがこっちを見ているのが分かります。変な汗が止まりません。止まっていた心臓の鼓動も大きくなっています。
するとCANONさんが、まぁ停電が原因かはわかりませんが、今回はこれで様子を見ていただけないでしょうか?と恐らく修理は完了したと確信があったのでしょう。
しかし地獄は続きます。お客様も納得されて現場から引き上げて帰る道中、車内は一気に温暖化。
 
CANONさん「停電…あったんですか??」
19「…すぅ~、…あったん…ですか?…いやぁ~…すぅ~……」
CANONさん「まぁ、停電があったかは置いといて、少し様子を見ましょう。多分もう大丈夫でしょうから。」
19「…すぅ~、……はい…」
 
気まずさ全開の車内の時間は驚くほど長かった。
あれから一か月。
コピー機も私の心臓も、今は正常に動いています。

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